■消費者
■賃借人
主文
一原判決主文第三項以下を次のとおり変更する。1控訴人aは、名古屋市に対し、金二億一〇〇〇万円及びこれに対する平成二年九月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2控訴人財団法人世界デザイン博覧会協会は、名古屋市に対し、金二億一〇〇〇万円を支払え。
3被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
二控訴人bのその余の控訴を棄却する。
三訴訟費用中、第一、二審を通じ、控訴人a、控訴人財団法人世界デザイン博覧会協会、被控訴人ら及び参加人につき生じた費用の各五分の一を控訴人a及び控訴人財団法人世界デザイン博覧会協会の負担とし、その余の費用を被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一控訴人ら1原判決中控訴人ら敗訴の部分を取り消す。
2(控訴人bの主位的控訴の趣旨)
被控訴人らの控訴人bに対する訴えをいずれも却下する。
3(控訴人bの予備的控訴の趣旨及びその余の控訴人らの控訴の趣旨)被控訴人らの控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。
二被控訴人ら
1本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
第二事案の概要
事案の概要は、原判決「事実及び理由」の「第二事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。当審における当事者の主張は、別紙控訴人らの主張の要旨及び被控訴人らの主張の要旨各記載のとおりである。
第三当裁判所の判断
一当裁判所は、被控訴人らの控訴人bに対する訴え(原審却下部分を除く。)は適法であるが、本案については、控訴人aに対する二億一〇〇〇万円及び附帯請求並びに控訴人協会に対する二億一〇〇〇万円の請求の限度で理由があり、その余の請求はいずれも理由がないと判断するものである。その理由は、次項以下のとおり加削訂正するほか、原判決「事実及び理由」の「第四当裁判所の判断」のとおりであるから、これを引用する。
二原判決六七頁一二行目の末尾に「丙一五ないし七一、」と、同六八頁初行「同c、」の次に「控訴人a、」と付加する。
三原判決七一頁二行目「要した費用」以下同四行目「記載されていた。」までを次のとおり改める。
「要した費用が取得価額として記載されていた。
また、控訴人協会以外の者が設置したものについては、デザイン博開催
に際して、同控訴人は施設からストリートファニチャー等に至るまで多種のものをイラスト入りで単価を明示して一般に参加を募ったが、これを元に参加者が同控訴人に提出した書面に記載した金額を会場設置価額と定め、これに二割ないし、ものによっては半額以下までの減額をした数値を各物件の取得価額として、右転用可能施設一覧表に記載した。
なお、控訴人協会が施設参加に際して示した単価は、控訴人協会が独自に設置した同種のものの単価に比べても価額に差異はない。」四原判決七八頁初行「右(四)」とあるのを「右(一)(4)」と改める。
五原判決八二頁九行目「右1」以下同八三頁初行「そして、」までを削除し、同二行目「(転用評価額)の」とあるのを「(転用評価額)、右は先に認定したように控訴人協会が設置したものにも、また同控訴人以外の者が設置したものにもそれなりの信頼すべき根拠をもとに算出されていたが、なお」と改め、同八行目冒頭以下同八四頁四行目末尾までを削除する。
六原判決八九頁初行冒頭以下同九〇頁二行目末尾までを削除する。
七原判決九〇頁七行目「同c、」の次に「控訴人a、」を付加する。
八原判決九〇頁一二行目末尾に行を改め次のとおり付加する。
「(8)被控訴人らは、本件各契約の目的物は入札の方法によらず随意契約によって買い入れられたのは地方自治法施行令一六七条の二第一項二号に違反し違法、無効であると主張する。
しかしながら、本件各契約の目的物は博覧会の残置物であり、一部のものを除けば広大な土地や施設においてのみ利用できるストリートファニチャー、時計塔、シェルター等元々用途や利用者の制限されたものが殆どであること、農楽図陶壁等後に認定するように名古屋市が特に買い入れる価値のあるものもあったこと、売り手の控訴人協会は存続に時間的制限があったこと等を合わせ考えれば、名古屋市がこれらをまとめて、競争の方法によって購入するのが困難なものとして随意契約によったことは裁量の範囲内のこととして違法と認めることはできない。
したがって、この点の被控訴人らの主張は採用しない。」
九原判決九五頁九行目末尾に行を改め次のとおり付加する。
「(4)控訴人aは、平成元年一一月ころ初めて、d室長から名古屋市の各局によりデザイン博で出展された物件の購入が検討されていることを知り、既定予算の範囲内で購入できるということだったので、その方針を了承した旨当審において供述する。
しかし、前記(原判示)認定のとおり、平成元年一一月ころは各局の購入希望物件と購入予定額がほぼ確定した時期である。
それまでの間、市の幹部会や各局が合計約一〇億円にも上る多額の物品購入について繰り返し検討しているのに、市長である控訴人aがこれを全く知らなかったということ自体、不自然である。
また、右供述内容は、まだ購入希望物件等が定まっていない同年九月末か一〇月初めには控訴人aに対し購入の話を報告したとする控訴人eの供述内容とさえも一致しない。
これらの点と前記検討結果(原判決九〇頁末行冒頭から九五頁九行目末尾まで)とを併せ考慮すれば、結局、控訴人aの右供述は、同控訴人に赤字回避の目的があったと認定されることを極力回避する意図に基づく供述である可能性もあるというべきであって、信用できない。」
一〇原判決九五頁一一行目末尾に行を改め次のとおり付加し、同九八頁五行目冒頭から同頁八行目末尾までを削除する。
「被控訴人らは、本件各契約は双方代理によるものであって、民法一〇八条の類推適用により、無効となり、無効な契約に基づく本件の支出が違法である旨主張する。
ところで、地方公共団体の長は、当該地方公共団体の財産の管理処分に関しては、当該地方公共団体の利益、ひいては住民の利益のために、忠実にこれを行う義務を負うと解される。
そして、長が地方公共団体を代表してする随意契約に当たり、同時に、契約の相手方をも代表してその利益を図る立場に立つこと(双方代理)は、相手方の利益を図る結果、地方公共団体の利益を損なう危険があるから、右の義務に違反するものであって、民法一〇八条(あるいは同法五七条)の類推適用により、その契約の効力は直ちには地方公共団体に帰属しないものと解される。
しかし、双方代理行為による契約であっても、契約当事者間に実質的な利益相反の関係が存しない場合には、地方公共団体の利益が損なわれる危険はないから、契約の効力は地方公共団体に帰属するものと解される。そこで、」
二原判決一〇〇頁三行目末尾に行を改め次のとおり付加する。
「(4)アところで、控訴人協会は、名古屋市とは別個の法人として設立されたが、その目的は、名古屋市の市制百周年記念事業を円滑に運営することにあり、代表者も市長が就任し、事業終了後における控訴人協会の損益が名古屋市に帰属する関係
にあったこと等から、控訴人らは、名古屋市と控訴人協会との間には実質的な利害の対立がなく、民法一〇八条は類推適用されない旨主張する。
イ証拠(丙五、一三、一四、原審証人f)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認定できる。
(1)名古屋市ではかねてより、市制百周年の記念行事を企画し、昭和五八年には各界の有識者からなる名古屋市制一〇〇周年記念事業懇談会を、昭和六〇年には市議会に市制百周年記念事業促進特別委員会を設置し、討議検討を重ね、昭和六一年四月、右記念事業のメイン・イベントとしてデザイン博を開催することが報告され、これに沿って控訴人協会が設立された(昭和六一年一二月二六日設立許可)。
(2)控訴人協会は、名古屋市におけるデザイン博の準備及び開催運営を行うことを主たる目的とする財団法人で、会長に名古屋市長が、副会長に名古屋市助役が、専務理事、常務理事に名古屋市幹部職員が就任し、事務局も名古屋市職員を中心に構成されたものであるが、同時に、名古屋市に関係のある地方公共団体や経済団体等の協賛を得る等の目的から、これらの団体も設立に参加したものであり、その設立段階の基本財産は二二五〇万円で、名古屋市が拠出したのはそのうち一〇〇〇万円とみられ、他の副会長には名古屋商工会議所副会頭、愛知県副知事、中部経済連合会副会長、名古屋港管理組合副管理者が就任し、理事には、中京地域の財界や学識経験者らから約三五名が就任した。
なお、控訴人協会の運営に関する重要な事項は理事会において決することとなっている。
(3)寄附行為によれば、控訴人協会は昭和六五年三月末日までに解散することとし、解散の際における残余財産の処分方法については、学識経験者等からなる評議員会の審議を経た後、理事会において理事現在数の四分の三以上の議決を得、かつ、通商産業大臣の許可を得て、控訴人協会と類似の目的を持つ他の法人または団体に寄附するものとする旨定められている。
もっとも、解散の際に負債が残存するおそれがある場合の補填方法については特段の規定はない。
ウ右事実によれば、控訴人協会は名古屋市の行政的施策であるデザイン博の準備及び開催運営をする目的で設立されたもので、法人の組織も名古屋市の手足となり得る構成となっていると認められるから、名古屋市と控訴人協会との取引行為が右の目的に沿ってなされる場合には、両者間には実質的に利益相反
の関係が生じないこともあるとみることができる。
しかし、本件各契約は、前記(原判示)認定のとおり、デザイン博の準備及び開催運営自体に直接関係する行為ではなく、デザイン博終了後に控訴人協会に残存することになる使用済み財産を売却する行為である。
そして、右認定のとおり、デザイン博終了後の控訴人協会の財産関係は、名古屋市の財産関係とは別個のものであって、名古屋市は控訴人協会解散後の残余財産を当然に取得し得る地位にあるものではなく、右の寄附行為の規定のとおり、名古屋市以外の法人または団体に寄附されることもあり得るのである。
そうすると、デザイン博で使用後の物品の売買契約に当たり、控訴人協会の財産的利益を図ることが、最終的に名古屋市の財産的利益を図ることになるとは当然にはいえず、両者の利益は相反する関係に立つということができる。
エなお、右の点につき、控訴人らは、名古屋市と控訴人協会とが一体のものであること、また、デザイン博が名古屋市の事業の一環として行われた以上、控訴人協会はもちろん、名古屋市としてもデザイン博の赤字により第三者に迷惑をかけることはできないのであって、本件各契約による名古屋市からの資金供給を通じて第三者に迷惑をかけないように控訴人協会を清算するという点では、名古屋市と控訴人協会との利害が一致しており、利益相反関係がない旨をも主張する。
しかし、右認定のとおり、名古屋市と控訴人協会とは別個の法人であることは明白であり、また、控訴人協会の基本財産に対する名古屋市の拠出額の比率は五〇パーセント以下であり、証拠(原審証人g)によるも、当時の名古屋市の幹部は、控訴人協会の設立には名古屋市以外の団体も加わっていることは十分認識しており、両者に利益相反が生じないような一体性があるとまでは考えていなかったものと認められる。
また、第三者に迷惑をかけないという点で利害が一致し得るとしても、それは事実上の事柄に過ぎず、法的な関係をみるかぎり、本件各契約について、控訴人協会の代表者は、赤字の回避のため、名古屋市側の物品需要にかかわらず、売買代金総額が赤字の補填に足りる多額のものとなるように行動することが求められるのに対し、名古屋市の代表者は、物品の購入という手段を用いて行動する際には、デザイン博の赤字とは関係なく、必要な物品を安く購入することが求められていた筈であって、このような両者の法
的な立場が利害の相反するものであることは明らかであるし、現に、前記(原判示)認定のとおり、本件各契約の代金合計額は第三者に迷惑をかけない範囲の額を超え、控訴人協会に二億円余りの剰余を生じさせるものとなっているのであるから、名古屋市と控訴人協会との間に利益相反の関係が生じていなかったなどとは認定できない。
(5)以上によれば、本件各契約に当たり、名古屋市と控訴人協会との間には実質的にも利益相反の関係が認められるから、本件各契約の効力は直ちには名古屋市に帰属しなかったものと認められる。」
三原判決一〇三頁八行目冒頭から一二六頁二行目末尾までを次のとおり改める。
「イ地方公共団体の長による利益相反行為につき、民法一〇八条(あるいは同法五七条)の類推適用により、その効果が本人である地方公共団体に帰属しないとしても、本人である地方公共団体がその行為を追認した場合には、民法一一六条の類推適用により、その意思に沿って本人に法律効果が帰属するものと解すべきである。
これに対し、被控訴人らは、地方自治法一四二条を引用して、地方公共団体の長による利益相反行為は、解釈論上、追認の余地がない旨主張する。
しかし、本人にとって利益相反行為が利益となるか不利益となるかは、実質的に判断されるものであり、また、民法一〇八条(あるいは同法五七条)を類推適用しながら地方公共団体の追認の余地を認めないといった解釈は、一貫性を欠き、追認するか否かの選択権を本人である地方公共団体に与えない点で、かえって地方公共団体の利益を損なうおそれのある解釈というべきであり、利益相反行為禁止の制度の趣旨にもそぐわない解釈である。
地方自治法一四二条は、地方公共団体の長と地方公共団体との間に定型的に利害関係を生ずる場合につき、長の代表行為の有無を問わず、関係私企業の長、委員等になること自体を禁止し、もって生じ得る弊害を未然に防止する趣旨の規定であって、現に利益相反取引がなされた後の法律効果の帰属の場面において、地方公共団体の意思を無視して取引を絶対的に無効とすべきことを要求する趣旨の規定と解することはできない。
したがって、被控訴人らの右主張は採用しない。
そして、右類推適用により追認を認める場合、追認すべき機関は、団体とその執行機関との間における利益相反行為につき、類似の関係に関する商法二六五条等を考慮すれば、右は議会である
と解される。
すなわち、議会は住民の代表機関であると共に、地方公共団体の意思決定として基本的、重要なものを掌握しているという意味で最高意思決定機関と認められる。
そして、追認の根拠が本人の法律効果引受意思にある以上、私法上の追認と同様に、追認自体は明示のものでも黙示のものでもよく、また、追認の意思表示の内容は、執行機関に対する法律行為権限を付与することを明示するものでなくとも、単純に利益相反行為に基づく法律効果を地方公共団体に帰属させる意思が表明されれば足るものと解すべきである。
これを本件についてみるに、右(原判示)ア(1)(2)の各議決の段階で、名古屋市議会は、本件の各契約がなされたことを認識しその当否を議論した上で、本件各契約により控訴人協会が収入を得たことを前提とする報告を承認し、あるいは本件各契約により名古屋市が取得した物品の活用のための予算を盛り込んだ次年度予算を可決しているのであるが、右承認ないし可決の各議決は、追認意思を直接表明したものではないにしても、本件各契約が市長が代表者を兼ねる控訴人協会と名古屋市との間の取引であること自体は認識した上で、本件各契約の効果が名古屋市に帰属することを前提としてなされた行為であるというべきである。
また、証拠(甲五一ないし三〇七)及び弁論の全趣旨によれば、名古屋市は右各議決の時点を含め今日までの間、本件各契約により引渡を受けた物品等につき、有効適切に利用活用しているか否かは別として、別紙控訴人ら主張の要旨別表「現在の利用状況」欄記載のごとく使用できる物は使用しており、本件各契約の効果を引き受ける態度を示してきていると認められ、逆に、本件全証拠によるも、名古屋市が、右各物品等を控訴人協会に返還する意向を示すなど本件契約の効果を引き受けない態度を示したことは皆無であると認められる。
これらの事情からみれば、遅くとも平成二年三月二六日の右(1)の承認議決の時点で、名古屋市議会は本件各契約の効果を名古屋市に帰属させる意思を黙示的に表明したものと理解できるのであり、これをもって追認があったと認定できるというべきである。
もちろん、名古屋市議会が利益相反行為を追認しても、契約の効果が名古屋市に帰属することになるのみであって、本件各契約につき、市長らに裁量権の逸脱、濫用等の違法がある場合には、右追認によりその違法が治癒されることはない。
(四)以上によれば、本件各契約は、利益相反行為ではあるが、追認がなされたものと認められるから、本件の支出の違法性を本件各契約が無効であることから帰結することはできない。
しかし、本件の支出の違法性については、なお、裁量権の逸脱、濫用等の観点からの検討の必要がある。
4本件各契約における裁量権の逸脱、濫用について
(一)はじめに
被控訴人らは、本件各契約について、その動機・目的が違法であること、加えて必ずしも購入の必要性のないものを、価格の妥当性につき十分吟味もせず、随意契約の制限に関する法令に違反して締結した点でも違法であること、控訴人協会が赤字でなければ、名古屋市は必要な物件を無償で取得したに違いないこと等を指摘し、売買における裁量権を逸脱したものである旨主張する。
これに対し、控訴人らは、本件各契約において名古屋市が購入した物品は、美術的芸術的価値を付与されている代替性のない物品等であり、名古屋市は、これらを記念に残す目的で、各局で検討した必要な物を、合理的な価格算定方式により算定した価格で購入したのであるから、違法ではない旨主張し、また、名古屋市は、デザイン博が赤字となった場合には、補助金等により、控訴人協会の赤字を補填すべき立場にあったが、控訴人協会が財産的価値のある物品等を無償処分した後に、名古屋市に対し補助金を要請することは現実的ではなく、補助金交付が市議会等で承認されるには、物品等を有償処分した上でなお赤字が発生するといったやむなき事態が前提となると考えられることからも、本件契約による事後処理が適法である旨主張する。
(二)随意契約による物品購入の違法性、裁量の範囲
(1)地方公共団体の随意契約による物品購入行為は、当該地方公共団体の行政上の施策を実施するための物的基礎を確保する行為であるから、政策実施に関する政治的方針を背景に、予算や財務の状況、物品の市況、個別取引の事情、その他複雑多岐な政治的、行政的、経済的要素の影響を受けて行われるものであって、その契約時期、契約内容等については、地方公共団体の長に裁量権が付与されていると解される。
しかし、右裁量権は法令の規制に従って行使されるべきは当然であるところ、地方財政法四条一項では、地方公共団体の経費は、その目的を達成するため必要かつ最少の限度をこえて支出してはならない旨規定しており、物品購入行為は必然的
に代金の支出を伴うのであるから、右の裁量権も右規定により制約を受けるものと解される。
そして、地方公共団体の長が、法律上随意契約が許される場合に、当該地方公共団体の施策のため必要な物的基礎を確保する目的で、購入の際の諸事情からみて不適正とはいえない価格で物品を購入することは、何ら違法ではないが、右の目的とは異なる目的で物品を購入したり、当該地方公共団体にとって必要でない物品を購入したり、本来無償で取得し得る物を有償で取得し、あるいは、適正価格を大きく超える価格で購入することは、裁量権の逸脱、濫用であって、違法であると解される。
そして、随意契約に当たり、地方公共団体の長等に、裁量権の逸脱、濫用等の違法があり、これにより地方公共団体に損害を生じさせた場合には、損害賠償責任の問題が生ずるものと解される。
(2)右の点につき、控訴人らの主張中には、控訴人協会の清算処理に関し、当初から補助金交付の名目で控訴人協会の弁済への助成を行うか、控訴人協会の所有物件の売買契約の中で、売買代金名目で補助金の趣旨を含ませるかの選択については、もとより何ら法的規制がなく、行政裁量に属する事柄であるとして、名古屋市が、控訴人協会の赤字を補填する趣旨を含ませて物品を購入することが違法ではないと主張すると理解し得る部分が存する。
しかし、前記地方財政法四条一項の「その目的」とは、経費を負担する行為に通常伴う目的を意味すると解すべきであって、物品を購入する内容の売買契約であれば、当該地方公共団体の施策のため必要な物的基礎を確保する目的がこれに当たると解すべきである。
「その目的」を右のように解さず、経費を負担する行為に通常伴わないような目的を有する場合もこれに含まれるとすると、目的の設定の仕方次第で際限なく支出がなされる可能性があり、そのような解釈は同条項の趣旨に反することは明らかである。
したがって、物品を購入する内容の売買契約の目的として、契約の相手方に対する補助金を交付する趣旨を含ませることは、同条項に違反し、違法である。
さらに、控訴人らは、補助金交付が市議会等で承認されるには、物品等を有償処分した上でなお赤字が発生するといったやむなき事態が前提となると考えられることから、本件各契約による事後処理が現実的で適法である旨主張し、控訴人aの当審における供述中にもこれに沿う部分がある。
しかし、仮に
、市議会が、関係団体に対する補助金交付を承認するに当たり、当該団体に対し、物品等を有償処分した上でなお赤字が発生するといったやむなき事態を要求するとすれば、その意図は、少しでも市の財政支出を少なくする意図に基づくとみるべきである。
したがって、市の関係団体が、赤字の問題に直面した際、保有する物品を任意に購入希望者に売却して赤字の回避に努めるのであればともかく、市長が、市議会による補助金の承認が容易に受けられないからといって、赤字回避の目的で、市の財政支出により、市に本来購入予定がなく、また、当該団体も本来有償処分を計画していなかった物品を、あえて有償で取得するがごとき行為は、右の市議会の意図に反することは明らかである。
むしろ、そのような市の支出行為は、市議会による補助金交付に関する審査を経ずに実質的に補助金たる金員を売買代金として支払うことに他ならないというべきであって、まさに補助金の支出に関する手続的規制を潜脱する行為となり、適法とは解し難い。
したがって、市議会による補助金交付の承認が困難であっても、そうでなくても、赤字回避の目的に基づく支出は原則として違法である。
(3)右の点を本件についてみると、本件各契約は、前記(原判決七八頁2(一))のとおり、デザイン博が赤字となることを回避するという目的で予算の範囲内で急遽締結されたものと認められるところ、地方公共団体が、その関係団体の赤字回避のために本来有償譲受を計画していなかった物品を購入する行為は、契約締結行為としてみれば、一種の他事考慮に基づく行為であるというべきであり、原則として、地方公共団体の長に与えられた前記物品購入の裁量権の範囲内にある行為とは解されず、そのような行為は、通常、本来無償で取得し得る物品を有償で取得することや、不必要な物品の購入、適正価格を超える支払等を伴うとみられ、地方公共団体に財産的損害を与える危険を有する違法な行為と解すべきである。
(三)次に、本件各契約の違法性について、当事者らの主張に鑑み、各建造物、物品等の性格をも考慮しながら、検討を加える。
(1)証拠(乙一の1、2、二ないし一一、一二の1、2、一三ないし二三、二四ないし三四の各1、2、三五ないし三七、三八の1、2、三九ないし四五、四六の1、2、四七、四八の1、2、四九、五〇の1、2、丙一五の1、一五の1の2ないし4、一五の2、一
六ないし二〇、二一の1、二一の1の2ないし5、二一の2、二一の2の2、二二ないし五〇、五一の1、2、五二ないし五八)によれば、本件各売買契約の目的物について、控訴人協会が売買契約または請負契約により取得した際の金額、ないし、控訴人協会が第三者による施設の提供の方法により無償で取得した際、事前に第三者に対して提案した各施設の建設または設置の額は、別紙控訴人ら主張の要旨別表の「会場設置価格」欄記載のとおりであり、同様に、各目的物につき、控訴人協会が名古屋市に対して示した価格は同別紙「転用評価額」欄の、本件各売買契約に基づき名古屋市が購入した価格は同別紙「名古屋市購入金額」欄の、購入後の設置場所は同別紙「設置場所」欄の各記載のとおりであると認められる(ただし、原判決別紙(一)(16)本丸ステージにつき、控訴人協会が名古屋市に対して示した価格は一億二〇〇〇万円と認められる。丙七)。
(2)原判決別紙(一)(26)以下(34)の購入について
当事者間に争いのない事実及び証拠(乙一六五ないし一七一、一七六ないし一九〇、丙八の3、六九、七〇、原審証人h)によれば、創造の柱(四六三五万円)、農楽図陶壁(七九七二万二〇〇〇円)その他名古屋市計画局が購入した計二億四一二〇万六一二〇円の施設、物品は名古屋市が白鳥会場にデザイン博に際して建設した国際会議場(白鳥センチュリープラザ)周辺の白鳥公園に組込まれて、現在、控訴人ら主張の目的を果していると認められる。
被控訴人らは、右創造の柱、農楽図陶壁の買取金額が元々無償で控訴人協会が取得したものであることを考えれば、これを有償で取得することは不当であると主張するけれども、デザイン博の趣旨及び前記名古屋市のデザイン都市宣言を明らかにする市の施策としての買い上げと認められること、控訴人協会は施設参加者には参加に際して各種広告媒体を通じて参加のPRをし、名前の規格に従って表示すること等も約束していること(丙六一)に照らせば、一方的に控訴人協会が前記各施設等を利得したものともいえない面があることや名古屋市の予算規模を合わせ考えれば、この購入は裁量を逸脱したものとは認められない。
この点の被控訴人らの主張は採用しない。
(3)原判決別紙(一)(16)本丸ステージ(市の購入価格(消費税込)七九六七万〇五〇〇円)について
前記(原判示)認定及び証拠(甲三、乙一
六、一二三、丙二四、三四、三五)によれば、本丸ステージは、デザイン博開催期間中、名古屋城会場に設置された建築物であるが、その建設工事費総額(消費税を除く。)は一億四四八七万一〇〇〇円であり(これには、右名古屋城会場における史跡保護のための基盤工事追加工事費二四八七万一〇〇〇円が含まれる。)、そのうち建築物自体の材料費は五〇〇〇万円程度とみられること(丙二四によれば、右の追加基盤工事を除く当初の建築工事見積額から工賃や給湯、電気設備関連費等を除いた建築物自体の材料費の見積額は約五〇〇〇万円程度とみられる。
右材料費の建築工事費に対する比率は約三五パーセントである。)、本丸ステージは、音響効果の高いステージとして建設された仮設建築物であって、それ自体として特に芸術的価値が高いものではないこと、本丸ステージは、本件契約後、新たに約九〇〇〇万円の追加費用をかけて東山公園内に再築され、再築後の本丸ステージは、仮設ではなく、音響効果とは関係のない休憩所及び倉庫として建て直されたが、再築までの間、解体された材料が野積みにされてしばらくの間雨ざらしとなって放置され、また再築後の屋根の材質が再築前のそれと異なるなど、再築に当たり、名古屋市が購入した材料がどの程度利用されたのかも不明であることが認められる。
以上の事実によれば、本丸ステージに関する本件契約の後、名古屋市の再築にあたり役立ったのは購入した材料の一部にすぎず、前記購入価格のうち、右材料費の一部に相当する金額を超える部分は、経済的観点からすれば不要なものであったといわなければならない。
控訴人らは、本丸ステージのデザイン料や撤去費用を考慮すべきであると主張するが、本丸ステージは名古屋市の記念事業のためにデザインされたものであるから、本丸ステージを取得するに当たり、名古屋市が控訴人協会にデザイン料を支払うべき必然性はなく、また、本丸ステージは仮設建物であり、本来的にその撤去が予定されていた筈のものであって、やはり、控訴人協会が名古屋市にこれを譲渡するに当たり、本来自ら負担すべき撤去費用を請求しうる立場になかったことも明らかである。
前記(原判示)のとおり、本丸ステージについては、当初農政緑地局が欲しくないと考えていた(原審証人i)のをc助役からの要請によって購入することになったといった経緯をも併せ考慮すれば、名古屋市が右のような追加費用の負担の重い仮設建物を取得すべき必要性には大いに疑問があるし、仮に、名古屋市が本丸ステージを記念として再築残存させるという政策を持つことについては合理性があり得たとしても、再築に有用な材料の中古価格以上の価値があるとは認め難く、八〇〇〇万円近い代金を支払う必要性も合理性も認められない。
結局、本件契約(16)は、赤字回避の目的により右のような高額の代金額を約束したもので、実質的には補助金を正規の手続を経ずに支払うことと同一の行為と評価できるから、物品購入に関する裁量権の逸脱、濫用に当たり、違法であると認められる。
(4)右(2)、(3)、以外の建造物等について
前記認定(原判示)、証拠(乙一の1、2、二、六、七、一〇、一四、一五、一七、一八、三〇の1、2、三一の1、2、四三、四五、四九、五三、五六、六五、六六、七二、八四、一一五、一一六、一一七、一二五、一二六、一三〇、一三一、一四六、一四七、二七六、二八九ないし二九一、二九六)及び弁論の全趣旨によれば、本件各契約により取得された物の中には、車庫、鉄骨造平屋、シェルター、レストコンプレックス、便所、休憩所、営業施設、サテライト、ボックス等、移設に当たり相当額の設置工事、建設工事を要するとみられる建造物等があること、これら建造物等は、特段そのデザイン性が問題とならないものや、デザイン性があるとしても、デザイン都市を創造する等の名古屋市の施策の推進に大きな効果があるとまでは認められないものであって、また、移設後の設置状況からみても、特に購入する差し迫った必要性があったとは考えられないものも含まれていること、これらの建築物等につき、本件各契約の際の名古屋市の購入価格(消費税分を除く。)は、会場設置価格(会場設置価格不明の場合は、取得原価をもとにしたとみられる転用評価額)の六五パーセントのものが大半を占めるが、中には八〇パーセントを超えるもの、さらには購入価格が会場設置価格を超えるものも散見されることが認められる。
そして、右会場設置価格は建築工事費用等を含む価格であるが、移設を前提とすれば、これらの建造物等は、移設工事の費用負担が重く、単価も大きいものであって、前記のとおり、名古屋市の他には購入を希望する者がなかったばかりでなく、名古屋市のような地方公共団体でしか利用しえないものが殆どで、控訴人協会としては、買い手がな
ければこれらの処分方法にさえ困ったとみられるから、名古屋市がこれらの建造物を取得するにしても、赤字回避の目的がなければ、かなりの低価格で譲り受け得る可能性もあったというべきである。
結局、これらの建造物が名古屋市でその後それなりの利用のされ方をしていることを参酌しても、名古屋市が各会場設置価格等の六五パーセントの高額の対価を支払うべき合理的理由はなかったものと認められる。
したがって、これらの建造物に関する本件各契約による支払については、赤字回避の目的に基づき、実質的には補助金を正規の手続を経ずに支払ったのと同一の行為と評価できるから、物品購入に関する裁量権の逸脱、濫用に当たり、違法であると認められる。
(5)その他の物品について
以上の外、本件契約により取得された物品には、前記(原判示)認定のとおり、放送用スピーカー、ベンチ、大形電光表示板、電話交換機、クーラー、樹木、投光器、フラッグポール、交通サイン、放送用アンプ、ツリーサークル、ごみ箱、すいがら入れ、外灯、フラワーフェンス、プランター、案内板、時計塔等、移設のためにさほど費用を要しないとみられる物品が多数あるが、これらは、特段そのデザイン性が問題となららない物品や、デザイン性があるとしても、デザイン都市を創造する等の名古屋市の施策の推進に大きな効果があるとまでは認められない物品であって、また、特に購入する差し迫った必要性があるとは考えられない物品も多く含まれていること、証拠(前記(1)掲記の各証拠、丙七、八の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば、これらの物品の大半について本件各契約の際の名古屋市の購入価格(消費税分を除く。)は、会場設置価格(会場設置価格不明の場合は、取得原価をもとにしたとみられる転用評価額)の九五パーセントから九八パーセントの価格であったこと、中には購入価格が会場設置価格を超える物品も散見されることが認められる。
そして、これらの物品はデザイン博で使用後の中古品であり、弁論の全趣旨によれば、このような中古品を取得するのに通常必要な価格が、会場設置価格等の九五パーセントもの高額であるとは認め難く、また、前記と同様に、これらの物品についても、名古屋市の他には購入を希望する者がなく、控訴人協会としては、買い手がなければこれを廃棄ないし専門業者に廃棄費用程度の低価格で売却する等の外なかったとみられるから
、名古屋市がこれらの物品を取得するにしても、赤字回避の目的がなければ、かなりの低価格で譲り受け得る可能性もあったというべきであり、結局、名古屋市が各物品の会場設置価格等の九五パーセントに相当する高額の対価を支払うべき合理的理由はなかったものと認められる。
したがって、これらの物品に関する本件各契約による支払についても、赤字回避の目的に基づき、実質的には補助金を正規の手続を経ずに支払ったのと同一の行為と評価できるから、物品購入に関する裁量権の逸脱、濫用に当たり、違法であると認められる。
5控訴人らの責任原因について
(一)控訴人aの責任原因(この項につき、「本件各契約」には本件契約(49)を含まない。)
前記(原判示)のとおり、デザイン博が赤字となることを回避する目的は、控訴人aを含む名古屋市と控訴人協会の幹部職員が関与して定めたと認められること、平成元年一〇月初めころまでに各局から購入希望の出された物件の数が少なかったことから総務局から購入物件を増やすように要請がなされたこと等、前記認定の本件各契約締結に至る経過に照らせば、控訴人aにおいて、自ら決裁した契約(本件契約のうち、(10)、(16)、(17)、(34)、(36)、(39)、(45))について認識があることはもちろん、その余の本件各契約についても、代決者により契約が締結されることを認識し得たと認められ、また、本件各契約の購入額の規模が一〇億円程度となることも認識し得たと推認することができる。
そして、デザイン博が赤字となることを回避する目的をもって、控訴人協会が本来有償処分を予定していなかった使用後の施設、物品を、約一〇億円にも上る金額で買い受けることが、名古屋市の財産権を侵害する危険があることは、予見可能であったと認められるから、控訴人aには、本件各契約につき、自ら決裁承認しない義務、あるいは、代決者ら補助職員に対し契約を締結しないように指導監督すべき義務があったものと認められ、それらの義務に違反した結果、本件各契約が締結され、これに基づく支出がなされたのであるから、右義務違反をもって、控訴人aの故意ないしは過失と認めることができる。
右認定に反する控訴人aの供述及び供述記載(丁一、当審控訴人a本人)は、採用することができない。
(二)控訴人eの責任原因
(1)原判示のとおり、控訴人eは、本件契約(18)の購入
の意思決定をしたのであるが、本件各契約中の他の契約については、購入の意思決定も契約締結行為もしていない。
したがって、控訴人eは、本件契約(18)以外の契約に関して、「当該職員」として損害賠償責任を負うことはないというべきである。
(2)そこで、控訴人eが本件契約(18)に関して損害賠償責任を負うかどうかについて判断する。
控訴人eは、名古屋市の助役として、市長を補佐して、前記助役以下代決規定(原判決の事実及び理由の第二の一4(一)(1)ア(1))の担任事務を中心として市の行政全般にわたって監督する地位にあったのであり、また、証拠(原審控訴人e本人)によると、デザイン博の担当助役であったことが認められるから、控訴人aが市長であるとともに控訴人協会の会長であること、右のとおり、控訴人aの方針に基づき、控訴人aの意を受けて、デザイン博が赤字となることを回避するために、名古屋市が控訴人協会から先に認定した規模、内容のデザイン博で使用した施設等を買い受けることとなったことの認識があったものと認められる。
したがって、控訴人eは、本件契約(18)について購入の意思決定をすることが名古屋市の財産権を侵害する危険のあることを認識していたか、仮に認識していないとしても、そのことに重大な過失があるというべきである。
(三)控訴人bの責任原因
前記(原判示)認定、証拠(乙三二〇の2ないし4、原審控訴人b本人)及び弁論の全趣旨によれば、名古屋市では、支出負担行為の確認は、債権者からの請求書及び支出命令書によって行われていること、支出命令書には、金額、支出先、支出の趣旨(例えば、「世界デザイン博覧会会場〇〇の購入」)等が記載されていること、控訴人bは、収入役という名古屋市の幹部職員で幹部会の構成員であるから、平成元年九月ころのデザイン博についての客観的な情勢についてもある程度認識していたものとみられること、また、名古屋市が控訴人協会からデザイン博で使用した施設等を購入することについては、右幹部会において話題になっていたこと並びに控訴人協会から名古屋市が購入した目的物や価格は、右支出命令書及び請求書から明らかになることが認められる。
そうすると、控訴人bは、自ら支出負担行為の確認をしたもの(本件契約のうち、(3)、(6)(一部の支出命令に係るもの)、(8)、(10)ないし(17)、(18)(一
部の支出命令に係るもの)、(27)、(30)ないし(37)、(39)(一部の支出命令に係るもの)、(40)(一部の支出命令に係るもの)、(41)、(43)(一部の支出命令に係るもの)、(45)の各代金の支出)について認識があることはもちろん、その余の本件各契約(ただし、本件契約(19)ないし(23)、(49)を除く。)についても代決者が支出負担行為の確認をすることを認識し得たと認められ、控訴人aの方針に基づき、デザイン博が赤字となることを回避するという動機で、名古屋市が控訴人協会からデザイン博で使用した施設、物品を買い受けることを認識していたと認められる。
しかし、まず、前記(原判示)のとおり、本件各売買の方法自体は、各局から希望を出させた物品について、代金額の算定方法も一定の算出方法により定めまた予算の範囲でなされたものであって、本件の証拠関係からは、控訴人bにおいて、各局から出た希望が各局内部の行政施策実施のためには不必要なものであると認識していたと認めることは困難であるし、代金額の算定方法が違法であるとか、裁量権の逸脱、濫用の違法があるとかを認識ないし判断していたことを直接裏付ける証拠もない。
したがって、控訴人bが故意に法令に違反して支出負担行為(本件各契約)の確認(代決者によるものを含む。)をしたと認めることはできない。
のみならず、地方公共団体の売買契約について、裁量権の逸脱、濫用の判断や性質上競争入札に適しないか否かの判断は、事の性質上、誰もが一義的に判断できることとはみられず、本件各契約についても、一般に収入役が少しの注意を払えば右各点に関する違法を認識し得るとまでは認め難いというべきものであるから、これを十分審査しないからといって、重大な過失であるとまでは認めることができない。
なお、控訴人bは、双方代理行為が禁止されることは知っていたと認められるが(原審控訴人b本人)、前記のとおり議会の追認が認められる以上、右の認識のみをもって控訴人bの責任原因を肯定することはできない。
(四)控訴人協会の責任
(1)不法行為について
控訴人協会に対する不法行為に基づく損害賠償請求は、不当利得に基づく返還請求と選択的併合の関係に立つと解されるから、まず、不法行為について検討する。
控訴人協会は財団法人であり、また、前記(原判決事実及び理由の第四の二3(一)(1))の
とおり、本件各契約は、常時決裁をすることとされている者による契約を含め、控訴人aが、控訴人協会の物品を売却するという職務を行うにつき、控訴人協会の会長として控訴人協会を代表して締結したものと認めることができる。
ところで、前記認定によれば、控訴人aは名古屋市に対し、売買契約を締結する際、控訴人協会の赤字を回避する目的などに基づきその裁量権を逸脱、濫用してはならない法的義務を負っていたと認められ、控訴人協会の代表者として行動するにあたっても、依然として名古屋市に対する右の法的義務を負うと解されるところ、過失により、右の義務に違反して、控訴人協会の代表者として、名古屋市との間で、自らないし常時決済者を通じて本件各契約を締結してその代金を支払わせたことになるから、これによって名古屋市に財産的損害が生じた場合には、控訴人協会は名古屋市に対し法人の不法行為に基づく損害賠償責任(民法四四条)を負うものと認められる。
(2)不当利得について
不法行為に基づく損害賠償請求については後に認定するとおり被控訴人らの請求の一部が認められるにすぎないから、残余部分に関して不当利得返還請求が維持されることになる。
しかしながら、本件契約(49)を除く本件各契約につき、名古屋市への契約の効果の帰属に関しては、前記のとおり議会による追認を認めることができるから、双方代理等による契約の効果不帰属を根拠とする不当利得返還請求は認められない。
また、前記地方財政法四条は、地方財政の処理に関する行政上の準則を規定するものであって、これに違反する行為の私法上の効力を直接否定する趣旨を含むものではないと解されるから、地方自治法二条一六項(平成一一年法律第八七号による改正前のもの)の規定にもかかわらず、本件各売買契約が当然に無効となるものではない。
したがって、控訴人協会に対する不当利得返還請求権は認められない。
6損害について
(一)はじめに
前記(原判示)認定によれば、本件各契約により名古屋市が支出した金員は合計一〇億三六三一万九三二四円であり、残務整理後に最終的に控訴人協会に残存する残余財産は二億一〇〇〇万円と認められ、右支出額と残余財産額との差額は、八億二六三一万九三二四円となる。
(1)被控訴人らは、議会の民主的監視、民主的コントロールを回避してなされた違法行為に基づき当該地方公共団体が被った損害は、当
初に支出された金員それ自体を損害とすべきであると主張する。
しかしながら、地方自治法第二四二条の二第一項四号に基づく住民訴訟において住民が代位行使する損害賠償請求権は、民法その他私法上の損害賠償請求権と異なることはないというべきであるから、損害の発生、損害の額、すなわち当該加害行為がなかった場合の利益状態とこれが発生したことによって生じた利益状態との差額の主張立証責任は原告にあると解すべきである。
これを本件についてみると、地方公共団体の随意契約による売買が違法であるからといって、直ちにその支払い代金全額が当然に賠償すべき損害になるのではなく、(1)違法な売買契約の結果生じたであろう地方公共団体の財産状態と、(2)かかる売買契約がなかった場合に地方公共団体に生じたであろう財産状態とを対比してその差額をもって損害と解すべきである。
そうして仮に違法な売買契約がなかったとしても、控訴人協会が負債を抱え、かつ、その負債につき名古屋市が支払資金を拠出せざるをえぬ立場にあったとすれば、右支払金相当額は違法行為の有無を問わず名古屋市が負担すべきものとして前記損害を確定すべき要素となるべきものである。
したがって、この点の配慮をすべきでないという被控訴人らの主張は到底採用することはできない。
(2)すでに認定した事実によれば、デザイン博は、かねて名古屋市が企画していた市制百周年記念事業の一環として行われたものであるから、名古屋市の施策を実施したものとも考えられるところ、控訴人協会がデザイン博の準備及び運営の過程で負担した債務ないしは残務処理のための必要経費につき、控訴人協会が支払能力がない場合には、控訴人aの当審供述によっても認められるとおり名古屋市の補助金に頼らざるをえぬ蓋然性は極めて高かったといわなければならない。
しかしながら、補助金は、予算に計上して議会の議決を経なければならぬ事項であるところ、本件デザイン博について控訴人協会は、二度にわたる予算の改訂によって二五〇億円の予算が計上されていたにもかかわらず、主として主催者関連事業費、施設建設費において、予算どおりの入場料収入があっても賄いきれないほどの大幅に予算を上回る支出をしている点(丙一三、一四)や控訴人協会は名古屋市の他に愛知県等四団体が構成員となっていて、それぞれが少なからざる出資をしていることを考えれば、八億二六三一
万九三二四円、前記裁量逸脱がない売買と認められる白鳥公園関係の支出二億四一二〇万六一二〇円をこれから控除しても五億八五一一万三二〇四円全額が名古屋市の補助金のみにより、補填される保障などどこにもないといわなければならない。
してみれば、あたかも八億二六三一万九三二四円が全額補助金として名古屋市から交付されるやに主張して結局本件違法行為によって名古屋市には損害がないと主張する控訴人らの主張も採用の限りでない。
(3)前記(1)(2)の利益状態はあくまで想定による額であり、これを想定推計することは容易なことではないけれども、通常の補助金の交付に至る例とか当時他府県で行われた博覧会の残務処理の仕方等の調査等の間接事実の積み重ねによって想定することも可能と考えられる。
しかるに被控訴人らは、通常控訴人協会の成立の経過やデザイン博の趣旨から考えても到底首肯し得ない破産等の主張をするのみであるから、結局損害の立証がないことに帰し、この点の被控訴人らの請求は理由がないことになる。
(二)残余財産分二億一〇〇〇万円と損害の有無
控訴人らは、前記残余財産分二億一〇〇〇万円は、名古屋市に寄附されることが決定されており、この分は損害に該当しない旨主張する。
そこで検討するに、前記(原判示)のとおり、控訴人協会は、平成二年三月二八日、理事会において、残余財産二億一〇〇〇万円を名古屋市に寄附する旨を議決したものであるが、右金員については、本件口頭弁論終結時点までに、現実の支払、仮払、条件付きの支払、弁済供託、その他、何らかの形で名古屋市に納入等されたものと認めるに足る証拠はない。
控訴人らの主張は、要するに、控訴人協会が名古屋市に寄附する議決をすれば、将来その金員が名古屋市に納入されることが確実であるから、その金員が現実に名古屋市に納入されなくても損害が発生せず、ないし損害が補填される、というものと解されるが、損害は、現実の財産状態を基準に判断されるべきであって、違法な支出の後、地方公共団体が相手方に対し、損害賠償請求権と同一の経済的目的を有する債権を取得しても、現実にその債権が履行されないかぎり、違法な支出により現実に発生した財産減少の状態が、当初から存しなかったこととなったり、あるいは補填されるものとは解されない。
結局、右残余財産二億一〇〇〇万円に相当する金員は、本件各契約に基づく代金支払の
際に違法に名古屋市から逸出したまま、未だ名古屋市に返還等されず、名古屋市では、右逸出時以降、右金員を行政目的に使用することができない状態が継続しているとみられるから、まさに損害そのものと認定できるというべきである。
したがって、右寄附の議決に基づき右金員が将来名古屋市に納入されることが確実か否かを詮索するまでもなく、控訴人らの主張は採用できない。
そうして、控訴人協会の外右二億一〇〇〇万円を賠償すべき当事者は、右金員が本件各契約による売買代金の残額であることに照らせば、もはや、各契約の賠償義務とはいえないものであるから、自らまた補助職員の指導監督者として、本件各契約全体(原判決別紙(一)の(49)を除く。)について、責任を負う控訴人aであるべく、それで足りるものと考える。
なお、控訴人らは、名古屋市が売買代金と対価性を有する物件を取得しているから損害はない旨主張するが、前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、前記白鳥公園関係の分を除く施設、物品等は、赤字回避の目的がなければ、本来、無償ないし本件の本件各契約の代金額より大幅に安い価格で取得することができた筈のものであると認められるから、それらの客観的価値を詮索するまでもなく、右認定の損害額は左右されない。」
第四結論
以上によれば、被控訴人らの本件請求は、名古屋市に対し、控訴人aが二億一〇〇〇万円及びこれに対する前記代金支出後である平成二年九月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、控訴人協会が二億一〇〇〇万円の各支払義務を負う限度で理由があるけれども(なお、控訴人協会に対する遅延損害金請求については、原審において棄却され、これに対する不服申立がなされていないから、当審における審理の対象とはならない。)、その余はすべて理由がないこととなる。よって控訴人a及び同協会の本件控訴は、主文第一項1、2の限度で理由があるけれども、その余は理由がなく、控訴人eの本件控訴は理由があり、また控訴人bの本案前の控訴は理由がないけれども、本案に関しては理由があることになり、これに従って原判決主文第三項以下を主文のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法六七条二項、六一条、六四条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。
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